2020年 スペインワイン収穫情報

オリジナルテキスト(英語):2021年1月7日公開
レポート:ワインジャーナリストPatricia Langton

多くのチャレンジに遭遇した年。生育期後半で条件が好転。

スペインのぶどう栽培者とワイナリーにとって、2020年は二つの大きな困難により忘れがたい年となった。一つはぶどう栽培に直接影響した「べと病-ミルデュー」、もう一つは新型コロナウイルス(Covid 19)。その影響はワイン生産者の生活に栽培から流通に至るまで様々な面で影を落とした。
悪天候により年間を通じて様々な課題が発生し、これを免れた地域はほぼなかった。
具体的には、例年に比べて湿度の高い年であった。特に沿岸地域では降雨量が増え、さらに春季の降雨量の多い時期に例年よりも気温が上昇したために、「べと病」の発生にとっては理想的な環境が揃ってしまった。そのためぶどう畑での作業は膨大なものとなった。結果的には収量は減ったが、品質に影響はなかった。夏季は乾燥し、気温も通常を上回る高温となり、「べと病」は抑えられた。
ぶどうの生育のすべての段階で通常より早く進み、収穫の日程は例年に比べると最大で2週間程度早まった。成熟期の最終段階で多くの地域で数日の雨日があったが、収穫の作業に影響を与えることなく、むしろ果実の熟成に有利に働いた。唯一の例外はリベラ・デル・ドゥエロで、雨によって収穫作業がしばしば中断されることとなり、作業を続けるか中断して様子をみるかの難しい判断を迫られた。
パンデミックによる国内外の市場で厳しい状況が続く中、一部地域では在庫過剰とならないための対応をとった。リオハでは潜在的な収穫量を90%以下に抑え、新しい作付けを中止した。

さて、期待できるワインはどんなタイプだろうか?醸造家の大部分が赤ワインをいつもより抑制のきいたタイプと表現している。白ワインは優れた爽やかさとフレッシュな果実味を持つ。2019年のふくよかなワインより、長期熟成により向いていると評価する。

2020年のスペインの収穫量(推定):4320万ヘクトリットル(ワインとマストの合計)
総収量は2019年よりも多く、近年の平均に近い。

出典:OEMV・スペインワイン市場展望-Observatorio Español del Mercado del Vino- https://www.oemv.es/) 

【前半】
1. ガリシア地域:
2. カスティーリャ・イ・レオン地域:

【後半】
3. 北部地域:
4. アラゴン地域:
5.ビノス・デ・マドリッドとカスティーリャ=ラ・マンチャ地域、
6. カタルーニャ及び地中海地域:
7. ヘレス

1.ガリシア地域

リアス・バイシャスの生産者にとって、春期が特に厳しい対応を迫られた時期となった。降雨量が多く、春の気温は例年を上回り、新梢の伸び始める時期が早まったため「べと病」や「黒腐病」にとっては理想的な環境となってしまった。病害は早期に始まり、生産者にとっては予想外のものであったため、収穫の50%が失われたケースもあった。

ワイナリーBodega Zárateのエウロヒオ・ポマレス氏と振り返る。

「冬の寒さは厳しくはなかった。最初の病害の発生は開花前の早い時期に起こった。通常、病害の発生に警戒するタイミングはもっと遅い。」しかしその後事態は一変した。「夏は乾燥し、大西洋地域にしてはかなり暑い日があり、水不足まで心配した。」

8月の末に雨が降り、それも大雨となった。「その時点で『灰色かび病』を心配したが、9月は好天で、収穫は中断無く行えた。」

「収穫をかなり早めたため、昨年と比べるとアルコール度は若干低い。2019年期のワインのほうがアルコール度数で0.5%ほど高く、実の完熟度も高い。が、私は2020年物のクオリティや仕上がり具合が気に入っている。ワインとしてはとても良いバランスだと思う。このビンテージはより早めに飲むタイプだと思う。」

収穫量は、リアス・バイシャスの収穫総量は収量の少なかった2019年から微増。

モンテレイは8月末から9月の天候に恵まれて、これまでで最高となる収穫量を記録した。収穫作業は一定のペースで行うことができ、白ブドウ種、黒ブドウ種共にすべての品種で最適な熟成のタイミングでの収穫作業が行えた。

リベイラ・サクラのぶどう栽培地は、特有な急峻な斜面であり、かつ内陸部に位置するため、少なくとも春先に他の地域が苦しんだ「べと病」の被害から免れることができた。地方紙が「めまいがするような収穫作業」とタイトルの記事を発表するほど、険しい斜面をなすぶどう畑で知られている地域。収穫量は赤ワイン用の品種、特にメンシアは期待通りのものとなった。

内陸に位置するバルデオラスの収穫量は2019年をわずかに下回ったが、感動的な質の良さであった。(白の)ゴデーリョの完熟度は良好で、潜在アルコール度は13~14度、酸度はここ数年より若干高め。つまり、通常、滓と共に熟成させる高品質なワインの仕上がりに期待が持てる出来ばえである。

主な原産地呼称産地の収穫量と主要品種
リアス・バイシャス:3450万kg (ほぼすべてがアルバリーニョ種)
モンテレイ:570万kg (主にゴデーリョ種とトレイシャドゥーラ種)
リベイロ:940万kg
リベイラ・サクラ:520万kg (メンシア種430万kg)
バルデオラス:550万kg (ゴデーリョ種350万kg)

2.カスティーリャ・イ・レオン地域

ビエルソでは6月と7月に雹まで降るような荒れた天候により、「べと病」に見舞われた栽培地もあった。さらに、7月半ばに気温が非常に高かったことで、生育が進み2019年に比べて約2週間ぶどうの熟成が早まった。8月24日までには収穫は始まっており、10月半ばまで収穫作業が続いた。

成熟最終段階に好天気が続き、質のいいぶどうを収穫することができた。2020年のワインは「バランスよく、果実味と、ぶどう品種の個性が強く表れている」ものが期待できる。 2020年のヴィンテージには、多様性を追求し、より質の高いワインとして認識されるためのいくつかの規則の改正があった。(注釈 2019年に国に認証されたゾーニングシステムの導入により)ソブラド、トーレ・デル・ビエルソとテレノの村名が、初めてビエルソ原産地呼称のラベルの名称に「村名ワインとして」記載された。さらに地域固有品種のぶどうメレンサーノ(Merenzao)とエスタラディーニャ(Estaladiña)が新たにDOのぶどう品種として認定され、この地特有のロゼのような色合いのワイン「クラレテ・デル・ビエルソ」もDOワインとして認証された。

夏の乾燥した気候により2019年の収穫が少なかったシガレスでは、今年は満足な収穫量を確保した。今年は、他の地域と同様に、必要に応じぶどうの木に集中的なケアを施した。茂った葉の換気に気を配り、摘果も行いぶどうの健康を維持するという様々な作業を要求されたが、収穫時のぶどうは規準の品質を満たした。白とロゼワインではよりフルーティーでしっかりとしたストラクチャーのワインを期待できる。また赤ワインは樽熟成での高いポテンシャルを示している。

リベラ・デル・ドゥエロの収穫は特に困難を極めたといえる。収穫期の降雨で作業の中断がしばしば起こり、収穫終了が11月の第一週まで延びた。その間、早くに収穫作業を終えるか、実がさらに成熟することを期待して作業中断を決定するか、その中間路線を選択するかで、生産者たちは難しい判断を迫られていた。この地域の土壌の質が多岐にわたり、また標高も様々なため、この悪天候の影響を多く受けた地域と少なかった地域の差が際立った。

ロア・デ・ドゥエロの家族経営の生産者、Sei Soloのハビエル・ザッカニーニ氏はこれより厳しい気象条件を経験したこともあると語る。「今期は春には十分な雨量があり、暑い時期に備えてぶどうの木を維持できる水分を確保できた。ほんの数度の違いではあったけれど、春の遅霜からも免れた。ここ数年と比較して違ったのは、夏季の気温で、一週間だけ例外的な週もあったが、今年の夏はさほど高温にならなかった。そして、収穫期の雨だ。これは例年と比較して決定的に違う。2日で80リットルの降雨というとてつもなく多い雨だった。これで、いろいろなことが複雑になったね。」

この大雨の前に収穫作業をする決定をしたワイナリーは少数派に属するが、Sei Soloはこの一つだった。「息子が雨の前に収穫をする決定をした。大きなリスクを伴う判断だったと思う。ある程度の雨は品質を良くするために役立つものだが、この大雨ではそうはいかない。」ザッカニーニ氏はSei Soloのぶどうの出来を「傑出した品質」と評価しており、2020年ヴィンテージの赤ワインに大きな期待を寄せている。

その他の生産者は、少なくとも収穫の一部に関しては収穫を待つべきだと判断した。収穫期の気温が例年にないほど低かったために、実を腐敗させる心配がないと判断したからだ。この地域を熟知しているマリアーノ・ガルシア氏によれば、(彼の所有する)Garmón Continentalでは9月17日から19日の大雨以前に収穫の40%だけ終わらせた。大雨後にアングイクスで収穫したぶどうは「果肉が厚く味に深みがある。」モラディリョ・デ・ロアなどその他の地域でもぶどうの出来は「素晴らしい成熟具合」だという。

収穫量で総括すれば、2020年のリベラ・デル・ドゥエロは歴代第三位の収穫量であり、認定された白ぶどう品種を含めて2019年よりも収量が増えている。

西部地域のトロに関しては、収穫量は昨年よりもかなり増え、テンプラニーリョ亜種の地域固有のティンタ・デ・トロは例年の平均を上回った。これは雨量の多さに関係しているが、春先の気象条件のせいで収穫量が大きく減量することがなかったからである。確かに春の遅霜の被害はなかったが、その他の地域と同様に、病害を防ぐための畑での作業は膨大であった。5月の悪天候で一部の栽培地では軽微な被害があった。

11月中旬、ワイナリー Bodegas Mauroの収穫に際し、前述のマリアーノ・ガルシア氏は今年の難しかった点を次のように語った。「充分に成熟したアローマと新鮮な果実さを取り出したかった。その目標達成のために早めに収穫し、ぶどう圧搾は軽めにし、マセラシオン(醸し)の期間を短くした。」若いワインとしてはすでによい結果がでつつある。「優雅にして繊細。今後、樽熟成での大きなポテンシャルを持っている。」

近隣のルエダでは、なんといっても白ぶどうのベルデホ種が主役だ。ワイナリー Bodegas Menadeでは、既に確立した有機栽培を行っているが、特に雨の多かったこの春、通常の「厳格な管理」はさらに重要性を増した。マルコ・サンス氏によれば今年の収穫量は例年通りで、醸造の初期段階でのベルデホ種は、良い酸度を持っており、ストラクチャーのしっかりした長く楽しめるワインになるという。

ワイナリーBelondrade y Lurtónのジャン・ベロンドラーデ氏によると、同社の有機栽培の畑では、降雨量が通常を上回り、この気象条件に対していかに迅速に必要な対応を取るかが重要であったと語る。夏季の気温はかなり高く、よって収穫は早くに始まった。2019年の「ふくよかな」ヴィンテージの後で、2020年のものはより抑制のきいたスタイルのものができたとみている。「2020年のマストは印象的なフレッシュさを持ち、アルコール度とアローマのバランスが良い。個人的には2013年のワインを思い起こさせます。より大西洋的なスタイルで、今後熟成でさらによくなるでしょう。」

ルエダの2020年のヴィンテージからは「Gran Vino de Rueda」という分類が新設された。これは30年以上の栽培歴を有するぶどう畑から採れたぶどうを使ったワインに対して与えられるもので、この動きは高樹齢の畑を保護し、さらに高品質ワインの生産地としての地域ルエダの名声を高めることを目的としている。

主な原産地呼称産地の収穫量と主要品種
ビエルソ:1080万kg(メンシア種860万kg)
シガレス:820万kg(主にテンプラニーリョ種)
レオン:280万kg(主にプリエート・ピクード種)
リベラ・デル・ドゥエロ:1億2300万kg(白ワイン用:アルビーリョ・マヨール種を含めて150万kg)
ルエダ:1億1280万kg(ベルデホ種9820万kg)
ティエラ・デル・ビノ・デ・サモラ:71万7582 kg
トロ:2060万kg(主にティンタ・デ・トロ種)

3.北部地域: リオハ、ナバーラ

ナバーラは、他の地域を襲った深刻なカビ菌による病害を免れ、むしろ2019年よりも収穫量が増えた。

ワイナリーBodegas Ochoaのアドリアナ・オチョア氏に聞いてみた。 「4月から10月まで降雨量は多くありませんでした。この地域全体では似通った気象条件で乾燥して暑かったです。大体において、病気の被害を心配するような状況ではありませんでしたが、6月という予想外の時期に降った雨のため「べと病」の発生が数件報告されました。」

オチョア氏は、夏の初めのぶどうの熟成のスピードの速さを心配していたという。8月24日という非常に早いタイミングで収穫を始めるが、それに先立つ頃には熟成のスピードもおさまっていた。9月には例外的に気温の上昇した一週間をのぞき、収穫期の気温は比較的低く、障害になるような雨が降ることもなかった。

2020年を彼女は「固有品種が強かった年」と評価する。「テンプラニーリョ種は驚くようなできです。複雑な味で香り高い」「ガルナッチャ種も非常に素晴らしい。」11月中旬、Bodegas Ochoaでは遅摘みの品種のマスカット(スペイン語ではモスカテル)の収穫が寒さの訪れた乾燥した天気のなか、「灰色かび病」の心配もなく行われていた。

リオハはこの特別に厳しかった年を象徴する地域となった。地域全体で気象条件が悪く、収穫期の後半に気温が下がるまでは息をつく暇もなかった。

ワイナリーLópez de Herediaのマリア・ヘスス氏は、1877年にリオハ・アルタに創業されたこの家族経営のワイナリーの歴史の中で、2020年はおそらくもっとも困難な年の一つであったと語る。なぜなら「最初の難関は春の嵐で、とても激しくそのうえ何回もやって来ました。そのうちの三回では雹まで降りました。その結果として『べと病』が発生し、収穫量が激減しました。この病害にこんなに『パーフェクト』な気象条件なんて、ここでは1941年以来よ!」

盛夏の高温の到来で、畑の様子はだいぶ好転した。しかし、それは早まっていたぶどうの成熟状況をさらに早める結果ともなった。「9月の第二週に二回目の熱波がやって来ました。その結果、一部ではぶどうの水分が飛び干乾びるような状態になりました。カビの発生を防ぐため、余分な葉を落として風通しを良くする剪定作業が行われていた場所では、ぶどうが直接日光にさらされてしまったのです。高い気温によりアルコール度数もあがってしまうので、急遽9月17日に収穫作業を始めました。この地域では記録のない早い日付です。」

最終段階では、夜間の気温が大幅に下がり、また雨も少し降ったことで状況は改善される。「通常、収穫期の降雨は喜ばれません。でも今年は糖濃度の高まる速度を緩めてくれ、非常に優れたフェノール類の変化をもたらしました。収穫の間に酸の度数とバランスが良くなってゆきました。特に長い生育サイクルをもつ品種でその傾向がでました。」「私たちの収穫量は平均的です。『べと病』の影響は受粉期に起こりましたが、結実された果実には影響を及ぼしませんでした。収穫はうまくいきましたし、区画の幾つかでは、風味良く、香り高く、味も濃厚で、とても良いものが収穫できました。」

リオハ・オリエンタル(以前のリオハ・バハ)のアルファロにあるBodegas Palaciosでは春の長雨と高温で湿度が上昇したことにより「べと病」に襲われた。作業チームは有機農法を実践しているぶどう栽培地でのカビ菌との戦いを始め、最終的に病害を抑えることに成功した。アルバロ・パラシオス氏は「こんな酷い『べと病』の害を経験したことがありません。畑での作業は非常にハードなものになりましたが、なんとか有機栽培を続けることができました。」

6月の半ばに雨は止み、高温と乾燥した気候はガルナッチャ種の幾つもの区画で熟成に有利に作用した。ガルナッチャ種はこの地域の伝統的な品種で、原点回帰の流れでこのワイナリーではこの品種が主に栽培されている。様々な困難には遭遇したが、パラシオス氏は2020年の収穫に満足している。「実に健康的な果実が収穫できました。非常に爽やかな素晴らしいワインが期待できる...、複雑でとても凝縮した味わいです。」

主な原産地呼称産地の収穫量と主要品種
ナバーラ:7400万kg
リオハ:4億990万kg(赤ワイン用3億6370万kg、白ワイン用4630万kg)

4. アラゴン地域

アラゴン地域では地域によって、運の良し悪しによって収穫量にばらつきが見られた。例えばソモンターノ北部は他の地域に比べて悪天候の影響を強く受けた。ゲヴェルツトラミネール種やシャルドネ種などの白ワイン用のぶどうは春先の嵐、雨や遅霜に見舞われた。初夏の雹はカベルネ・ソーヴィニヨン種やメルロー種などの赤ワイン用のぶどうに打撃を与えた。

一方、カンポ・デ・ボルハでは主要品種であるガルナッチャ種を含めて、すべての品種で開花が「異例なほど非常に均一」に進み、良い収穫が期待されると歓迎された。実際に、収量は昨年よりはるかに多かった。

カリニェナでも今年の収量は順調で、果実の品質も主要品種のガルナッチャ種、テンプラニーリョ種、カベルネ・ソーヴィニヨン種で「エクセレント(秀逸)」との評価を受けた。

主な原産地呼称産地の収穫量と主要品種
カラタユド:1250万kg
カンポ・デ・ボルハ:3550万kg
カリニェナ:9180万kg、昨年比60%増
ソモンターノ:1520万kg

5.ビノス・デ・マドリッドとカスティーリャ=ラ・マンチャ地域

ビノス・デ・マドリッドでは春の気温が他の地域よりも低く、幾つかの地区では春の遅霜によって早生の品種に被害がでた。春季と8月の降雨が多かった。収穫期を通して雨は通常よりも少なく、涼しい気温であった。収穫された果実は熟しすぎず、酸度とアルコール度数のバランスが良い。

2020年にD.O.ビノス・デ・マドリッドは首都の北部へ向けて拡大し、エル・モラール(El Molar)のサブゾーンに11の自治体が含まれた。この地区の主要な品種は赤ワイン用のガルナッチャ種、白ワイン用のマルバール種。スパークリングワイン用の品種も作られている。

ビノス・デ・マドリッド:1100万kg(推定)

今年のカスティーリャ=ラ・マンチャ地域の収穫量は2300万ヘクトリットル(ワインとマスト)で、ここ数年の平均からは僅かに下回ったが、この量はスペインの2020年の総量の半分強に当たると報告されている。

6.カタルーニャ及び地中海地域:カタルーニャ、モンサン、プリオラート、ビニサレム、バレンシア、フミーリャ

雨量の増加はカタルーニャ地方では喜ばれるが、それも度を過ぎれば害となる。モンサンのファルセットで記録された2019年の降雨量は194ミリメートルだったが、2020年は622ミリメートルと大幅に増加した。ここでも他の地域と同様に「べと病」による病害が発生し、収穫量に大きく影響した。この病害が主な原因となり、モンサンの収穫量は今までで最小となった。プリオラートの収穫量も2019年から大幅に減少した。

グラタヨップスに拠点を持ち、プリオラートとモンサンの両方でワインを生産しているフレディ・トーレス氏は「モンサンはプリオラートと比べて土地がより平坦で、土壌の保水力が高い。これがプリオラートに比べてモンサンの状況が悪化した原因です。」トーレス氏はこの地域の夏の気象条件を「完璧だった」と評価する。「気温は2019年よりも低く、充分な貯水量があったことは助けとなった。2019年のヴィンテージは秀逸なものだったが2020年は爽やかさと酸度において優っている、非常にバランスがいい。自分は熟成向きだと思う。」

主要品種であるガルナッチャ種とカリニェナ種では、前者が今年の条件によく適合した。「カリニェナはデリケートだから...。ガルナッチャ種は極端な地中海性気候に完璧にマッチしている。」

広大なD.O.カタルーニャでは、ブドウの生育期間のすべてにわたって様々な対策が取られたが、収穫量の減少を抑えられなかった。「べと病」の発生は、有機栽培を行っている農家にとって困難な課題をさらに複雑にした。内陸部の早生種の栽培を行っている地域では春の遅霜の被害が、また、砂地で保水力の少ない土壌の地域では夏の乾燥が問題となった。すべての黒ブドウの品種の収穫量が減少したが、特に顕著だったのはメルロー種とテンプラニーリョ種だった。一方、白ブドウ品種、主に地元の固有種であるガルナッチャ・ブランカ種、マカベオ種(ビウラ)はまずまずの収量だった。特にパレリャーダ種は遅摘み種であるために、9月18日から19日に降った雨の恩恵を受けた。

収量は減少したものの、アルコール度数と酸度のバランスのとれた、優しい果実味が特徴の品質のよい実が収穫できた。2020年には、DO.カタルーニャで栽培されている数多い品種の中に、初めてチャレッロ・ロゼ種が加わった。

マリョルカの生産者(D.O. ビニサレム)でも5月から6月の雨によって「べと病」が懸念された。6月末と7月末のこの地特有の高温により収穫の開始が早まった。固有種のマントネグロ種が今年の収穫量のほぼ半分を占める。

バレンシアでは、ここ数年、異常な乾燥が続いた後だったため雨量の多さは歓迎された。収穫期には好天に恵まれ、2019年よりも収穫量は約5%増加し、品質も「卓越した」ものとなった。

フミーリャも同様に順調だった。遅摘み種の固有種、モナストレル種が生育期の気象環境にうまく適合した。収穫量は2019年比で約15%増加し、結果として、今年は収穫量の多かった栽培農家では、単位収穫量をオーバーし、フミーリャ原産地呼称委員会の規格を満たさない率も増加した。今年のぶどうの品質は多くの品種で「極上」となり、近年にない最高の出来ばえであった。

主な原産地呼称産地の収穫量と主要品種
カタルーニャ:3230万kg
モンサント:550万kg
プリオラート:410万kg
ビニサレム(マリョルカ):100万kg。2019年から26%減。赤ワイン用のカリェットなど、固有種のできはまずまず。
バレンシア:7000万kg(推定)
フミーリャ:上記の通り収穫量は増加。このレポート作成時点で公式データ未公表。

7.ヘレス

へレスでは昨年の収穫量が減少していたが、2020年の収量はこれをやや下回る結果となった。これは春先に大量に雨が降る以前の、秋と冬の気候が非常に乾燥していたことによる。この地域でもぶどう栽培者は「べと病」や「うどんこ病」の対策に追われて、農家は栽培地での厳しい作業を余儀なくされた。ぶどうの生育は「酷暑の気候」と評された夏の初めに非常に早く進み、同じ区画の栽培地であっても果実の熟成度にかなりの差があることが指摘された。

マチャルヌード地域でパロミノ種のぶどうが最初に収穫されたのは8月5日。気温が少し下がったことで8月中の収穫期に適正なアルコール度を保つことができた。

ヘレス:5340万kg

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